2013年11月29日金曜日

東北地方に新設される医学部について(私の意見)

医師の偏在を解消するための医学部新設について



私は、滋賀県の山間農村地域の診療所で働く医師です。私は中学を卒業する頃に医師を志しましたが、当時、理想の医師像というものは漠然としたイメージしか持っていませんでした。高校へ進学し、将来、医師として働くのであれば都市部よりも地元の滋賀で、大病院よりも診療所で活躍する医師を目指したいという気持ちが強くなり、自治医科大学に進学しました。自治医科大学では医療に恵まれない全国のへき地で働く医師を養成するという目的をもって教育され、仲間とともにそれに必要な知識や技術を学びました。私が医師になって20年弱しか経っていませんが、そこでうけた教育は、診療所で働く今でも大きな糧となっています。
先日、東日本大震災からの復興を目的に、東北地方に医学部を新設するというニュースを目にしました。しかし、東北地方に医学部を新しく作るだけで医師の偏在をなくすことができるかどうか甚だ疑問です。医師の偏在をなくすにはそのような目的をもった医師養成学校を作るべきだと考えます。現在の日本には目的をもった医師養成学校は、防衛医科大学、産業医科大学、そして自治医科大学のみです。いま議論されているように新しく医学部の定員を増やすだけでは、ただ単に医師になるハードルを下げるだけで、「東北地方で働く医師を増やす」という目的と結果の乖離がみられることは明らかです。
私は自治医科大学を卒業し、いくつかの「へき地」といわれる地域で勤務をしましたが、田舎に住むことを嫌ったり、地方の病院では働きたくない、と思ったことは一度もありません。むしろ、今まで勤務したそれぞれの地域には、愛情と多くの思い出が残っており、働いていた職場でも医療スタッフのみならず、介護スタッフや行政、あるは地域住民の皆さんなど、医療に携わる以外の人達とのつながりや支援に支えられてきたように思います。自治医科大学を卒業した私の同級生や先輩そして後輩達も、私と同じ気持ちで働いている人が多いと思います。つまり、我々は「へき地」で勤務する医師になるように教育され、卒業した後もそのような地域で働く医師として地域の人達に育てられてきたのです。人(医師)は、政策やお金だけで育つはずがありません、理念をもって教育され、そして責任を伴う役割を与えられて成長するものです。

被災地の物的・人的支援が必要なことは明らかであり、東北地方に医学部を新設することには賛成です。しかし、それは明らかな目的をもった医師養成機関となるべきなのです。繰り返しますが、震災復興の夢を託されている新設医学部が東北地方の方々の期待を裏切ることにならないよう、慎重に議論されることを希望します。



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