2012年12月22日土曜日

認知症でも安心して生活できる地域づくり

今月は、研修医の先生が、一ヶ月間当院で地域医療研修を行っています。訪問診療もはじめて行うという研修医の二人は、みること全てが新しいことばかりのようです。

先日、とある一人暮らしの方(Mさん)のお宅へ研修医の先生と一緒に訪問しました。
お家に伺うと、誰もいません。
家じゅう探しても、もぬけの殻。
顔なじみのMさんの飼い犬だけが留守番していました。

いつもは散歩にもよく出かけるのですが、犬をおいて出かけることはほとんどありません。そんな私の話を聞いて研修医が途方に暮れていると、看護師さんが近所の方に尋ねました。
すると近所の方が「ゴミを出しにいったよ」と教えていただきました。
二人はホッと安心して、ゴミ捨て場に向かって探しにいくと、ゴミをのせた一輪車を置いて途中で休んでいるMさんを見つけました。
Mさんは今日の往診のことをすっかり忘れていた様子です。

じつは、Mさんは重度の認知症です。
往診の日をカレンダーに書いていても、当日の朝にヘルパーさんに確認してもらっていてもすぐに忘れてしまわれます。それ以外にも、薬を飲み忘れたり、お金の管理ができなかったり、ヘルパーさんが作ってくれた食事があるのを忘れて腐らせてしまったり、ご近所さんとのお付き合いなどもできなかったり・・・できないことだらけです。

しかし、往診の日を忘れていても探せばいい、薬は朝だけにしてヘルパーさんに飲んだかどうか確認してもらえばいい、お金の管理は権利擁護というしくみがある、食事が腐るのであれば毎回残らないようにヘルパーさんに食事の管理をしてもらえばいい、ご近所さんも顔なじみのMさんなら外を歩いていても「散歩」、けして「徘徊」なんて大騒ぎはされません。

そう、目の前の患者さんに対して医師としてできることなんて、微々たることだと研修医には気付いてほしい。できないことを指摘するよりも、どうすればできるかを考えてほしい。そして、病気が医療で解決できなかった場合でも「なんとかして病気を治す」なんておこがましいことを考えず、看護・介護スタッフと一緒に地域にとけ込んで、地域の人達と一緒に考えて汗を流そう。つまり、医療だけではなく、介護、そしてコミュニティが一体となることでその人を支えることができる。そうすることによって一人暮らしの認知症の方であっても安心して生活をすることができることを知っておいてほしい。

「立派なお医者さんになってください」Mさんの背中は、そう語っているように見えました。



2 件のコメント:

  1. フェイスブック秋山さんからのご紹介で拝読しました.しのごのいわず,実践されているご様子に感銘を受けました.
    はばかりながらシェアさせていただきます.YO生

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    1. 大久保様

      シェアしていただき、ありがとうございます。
      滋賀県南東部にある永源寺という山間農村地域での様子をブログにアップしております。
      アカデミックなことはできませんが、地域の皆さんに支えられながら活動させていただいております。
      今後ともよろしくお願いします。

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当院の在宅医療について

   ここ19年間の実績をまとめました。      死亡診断書枚数   在宅患者さん人数   訪問診療・往診のべ回数 2005年    12           66          492 2006年    17           70          553 2007年...