2020年4月16日木曜日

新型コロナに感染するまでに考えていただきたいこと

厚生労働省から、新型コロナウイルス感染症の国内発生動向(2020年4月14日掲載分)」が発表されました。


2枚目のスライドに、新型コロナウイルス感染症の国内発生動向という図が示されています。

これを見ると、70歳代でPCR検査が陽性となった人(671人)のうち約1割(71人)が重症(人工呼吸器をつける程度)肺炎になっておられます。その重症肺炎になられた人の約半数(37人)の方がお亡くなりになられています。
80歳以上についてはPCR検査陽性518人のうち、77人が重症肺炎となり、うち53人がお亡くなりになられています。
これからもわかるとおり、70歳以上で重症肺炎になった人のうち半数以上の方がお亡くなりになられる、とても厳しい感染症です。
我々医療者にとって病気になられた方の命救うことができず、大切な人を失うことはとても辛いことです。

しかし、その前に考えていただきたいことがあります。

もし、自分自身が重症肺炎になったら「肺炎の治療として人工呼吸器をつけて欲しいのかどうか」ということです。

そのような場面に直面した時には、本人は意思表示できるような状態にないことが多いのも現実です。このため決定を委ねられるのは家族あるいは親しい方となることが多く、決定を迫られた人の多くは迷います。我々医療者に尋ねられることもありますが、患者さんの治療方法を決めることはできません。

ですので、どのような治療を選択するのか、できれば元気なうちに自分自身で意思表示をしておいていただきたいのです。
当院では、そのような考えのもと患者さんに対しては情報提供とともに「人生の最終章をどのように過ごしたいか」といった対話を繰り返しています。患者さんによっては「そのようになった時には、自分は人工呼吸器はつけて欲しくない」と言われる方、あるいは「できるだけの治療をしてほしい」という方もおられます。

どのような選択であっても構いません。
自分自身で考えて、近しい人に伝えておいていただきたいのです。
我々も共に考え、伝えるお手伝いをします。


そして最後に、
新型コロナは全ての人に対して「死」を意識させる感染症ですが、感染した全ての人が肺炎になるわけではありません。
このウイルスに対する薬やワクチンがない現状では、我々にできることは、感染を予防し、栄養と睡眠を充分にとり体力をつけておくことです。

目の前に迫った現実から目をそらさず、生きていきましょう。






2020年4月14日火曜日

人生の希望を語り合うこと

当院では、在宅患者さんだけではなく外来にこられている患者さんにも、人生の最終章をどのように過ごしたいかご本人とお話をしています。

具体的な場面を尋ねたり、定型的な書面を用意しているわけではありませんが、診察の時に医師からご本人に直接「ご飯が食べられなくなったらどうしますか?」と尋ねています。病気の種類、介護の必要度、年齢、患者さんによって抱える健康上の問題点あるいは生活上の課題は様々ですが、状況が変化したときやご家族が付き添ってこられた時など、一人一人丁寧に話し合いお話しされたことをその都度カルテに書き込んでいます。

下の図は、3月21日から先週末まで外来に来られた50歳以上の患者さんが今まで私達とどのような話し合いをしたのかの内訳です。

治療・・病気に対して入院してできるだけ治療を優先することを希望する。
不要・・入院治療よりも、在宅での生活優先することを希望する。
未定・・まだ、人生の最終章のことまでは考えていない。
未確認・・その話題について医師と話し合っていない。




今、新型コロナウイルス感染症が都市部を中心に流行し始めています。今後、大都市だけではなく滋賀県内の地方都市、あるいは永源寺地域のような農村地域にも流行の波が訪れると思います。その時に感染しないように予防することも大切ですが、ウイルスに感染し肺炎になった時にどのような治療を選択するのか、本人とあらかじめ話し合っておくことはとても大切なことだと思っています。
今回の新型コロナウイルスによる肺炎が重症化した時、残念ながら人工呼吸器をつけた人が全て助かるわけではありません。ECMO(体外式膜型人工肺)も同じです。高齢になればなるほど治療成績は悪くなり合併症などのリスクも高くなります。
今回の肺炎に限らず、身近に死を意識することがいつ起こるかわかりません。ですので、自分自身はどのような治療方法を希望するのか、元気なうちから話し合っておくことがとても大切なのです。

当院の外来に来られる多くの患者さんは高齢の患者さんです。患者さんと話していると「肺炎になっても、苦しみがないようにしてもらえるのなら、人工呼吸器をつけないで最期まで家ですごしたい」という希望は多くあります。
指定感染症になっている新型コロナウイルスの場合、それがどこまで叶えられるのか、現時点では充分にわからないのも事実です。しかし、できないと諦めるのではなく、どのようにすれば本人の思いを叶えられるのかを考えるのも我々の仕事だと思っています。

これからも対話を続けていきたいと思います。
皆さんは「ご飯が食べられなくなったら、どうしますか?」

訂正)改めて確認しましたところ、データに訂正がありましたので図を修正しました。(2020.04.19)

2020年4月8日水曜日

ルールよりもマナーで感染を封じ込めよう

昨日、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令されました。
記者会見では「どのような会社はNGで、どのような職業は大丈夫なのか?」と言ったルールを明確にして欲しい、あるいは今後の見通しを尋ねる質問が多かったように思います。

確かにルールを決めれば個人や会社の方針を決定しやすいかもしれません。しかし、今やろうとしていることは「ルールを決めるのではなく、一人一人のマナーを徹底させること」だと私は理解しています。

前回のブログにも書きましたが、人間の社会的な活動の広がりが今回の感染流行になっているのは明らかです。そして、多くの国々で社会的な活動を制限することで流行を抑えられています。
社会活動を制限する方法は様々で、ヨーロッパには都市封鎖(ロックダウン)という方法で人々の行動を強制的に制限した国があります。これ以外にも都市封鎖に加えてスマホにアプリをダウンロードした個人の行動を全て把握して個人監視によりウイルスを押さえ込もうとした国もあります。

今、我々はどのように行動すべきなのでしょうか。

今回の緊急事態宣言は、国民に対しての強制力はありません。一部には「働かないと生活できない」という声も耳にしますが、命よりも大切な仕事ってあるのでしょうか。そのような価値観を生み出しているのは、貧富の格差が広がってしまった間違った社会なのかもしれません。一人一人が安心して生活できるようを社会保障を充実させること、それは公的扶助と言われる経済的な保証だけではなく、医療や福祉、公衆衛生分野などの充実です。
そのように安心して生活できる社会保障のもとで、一人一人が「三密を避ける」「体調が悪ければ休む」といったマナーを守ることができれば、感染をコントロールできるように思います。

繰り返します。
今、目指すべき目標は、社会活動を保ちながらウイルスと共存できる社会だと思います。
緊急事態宣言がでた地域もそうでない地域も、心がける個々人の行動は一緒です。一人一人がマナーを守りながら、感染を封じ込められるよう頑張りましょう。

2020年4月1日水曜日

利己的遺伝子という考え方

中国武漢で発生したCOVID-19(以下、「新型コロナ」と書きます)は、中国から全世界へと広まり、世界各国は国民の社会活動をとめるという手段でウイルスの広まりを抑えようと必死になっています。
しかし、現在のところ有効な治療法は開発されておらず、ワクチンもしばらく先になりそうです。
今まで人類は、様々な病原体による感染症の脅威と対面しました。天然痘など一部は押さえ込みに成功しましたが、ほとんどの感染症とは文化や生活スタイルを変えながら共存を続けています。今、世界中が立ち向かっている新型コロナとの戦いは、この先どうなるのでしょうか。

リチャード・ドーキンスが著書「利己的な遺伝子」で、すべての生物は遺伝子の乗り物に過ぎないという説を唱えました。

それまでのダーウィン説と対峙するもので、
ダーウィンは、個体が遺伝子よりも優先する。
 → 個体は自己に似た個体を残すことを目的とし、そのために遺伝子を利用する。
その一方で、ドーキンスは遺伝子が個体よりも優先する。
 → 遺伝子は自己に似た遺伝子を増やすことを目的とし、そのために個体を利用する。

というものです。つまりドーキンスの説によれば、生命体においては遺伝子が主体であり、全ての生物は遺伝子の乗り物でしかないという説です。

今回のコロナウイルスは、なんらかの野生動物が宿主でしたが、遺伝子がさらに広がるために人間を宿主に選びました。ウイルスが感染した全ての人間の命を奪ってしまっては遺伝子は自己を広めることはできません。
他の動物に比べ移動能力が格段に高い人間を選び、発症するまでに移動可能な潜伏期を保ち、多くの人間に感染しつつも軽症で済ませている(が、高齢者は重症になりやすい)。
ウイルス側から見るとグローバル化が進んだ人間社会こそが、自己増殖にとっては都合の良い宿主だったようです。
今回の新型コロナの流行は、グローバル化が進んだ人間の生活スタイルこそが根源だったと考えるのが自然なようです。
新型コロナウイルスは、せっかく選んだ宿主に感染する手を緩めることはないと思います。世界中で流行している感染症を、日本だけ感染が広がらないように押さえ込むことはおそらく不可能であり、人間にとっての現実は厳しいと思います。

社会活動を保ちながら、ウイルスといかに共存するか。
人間社会にとって新しい文化、新しい生活スタイルに変化するタイミングなのかもしれません。











当院の在宅医療について

   ここ19年間の実績をまとめました。      死亡診断書枚数   在宅患者さん人数   訪問診療・往診のべ回数 2005年    12           66          492 2006年    17           70          553 2007年...