2020年12月31日木曜日

 当院の在宅医療について

 当院では在宅診療を積極的に行っております。

ここ15年間の実績をまとめました。


     死亡診断書枚数   在宅患者さん人数   訪問診療・往診のべ回数
2005年    12           66          492
2006年    17           70          553
2007年    12           69          546
2008年    22           89          736
2009年    22           98           1136
2010年    25            112           1293
2011年    23            121           1320
2012年    29            131           1571
2013年    27            141           1585
2014年              33                                      144                                   1464
2015年      36            151            1359
2016年      36            141          1682
2017年      30                                      133                                    1481
2018年    24                                      114                                    1285
2019年    37          135          1568
2020年    36          284          1522

 今年は新型コロナ騒ぎがありましたが、永源寺地域の在宅医療には大きな変化はありませんでした。
 2020年、訪問診療を卒業された方は、45人おられました。そのうち36人の方を最後まで診させていただきました。それ以外の9人の方は、急変や家族の都合で入院、あるいは転医など理由は様々です。
 永源寺地域全体では病院も含め、年間60人程度の方が息を引き取られています。当院は入院施設はありませんので、私が死亡診断書を書いているのは、主に在宅の方です。つまり、地域の半数以上の方が病院以外で息をひきとられている。永源寺はそんな地域になっています。
 永源寺診療所には、とびぬけて素晴らしい医療機器や、大勢の医療介護スタッフがいるわけではありません。どちらかというと、山間農村地域にありがちな限られた医療機器しかなく、人材も不足しています。しかし、私達が重要視していることは、診療以外のこと、つまり「対話」です。
 外来の時から本人には「ご飯が食べられなくなったら、どうしますか?」と自分の人生の最終章の希望をお伺いしています。また、病院がいいか、在宅にするのかの判断は、私達が在宅医療を勧めることはほとんどなく、本人と家族の対話に参加させていただいている程度です。そして、在宅療養を選択されても、ご家族には「できるだけ仕事を休まないでください」「介護は我々のチームで行います」というようなお話もしています。
 つまり、こちらが「なにがなんでも在宅で」と勧めることはありませんが、本人・家族が「最期まで家で」と選択される方が多くなっているようで、最期まで家にいることが当然のことのように思っておられる人が増えているように思います。
 もちろん、このように充実した在宅医療が提供できるのも、私個人の力というよりも、地域の専門職と、地域の皆さんのおかげだと思っています。

 高齢化のすすむ永源寺地域ですが、地域の皆さんが安心して生活できるよう、そして対話を通じて「看取りの文化」がさらに定着するよう、これからもお手伝いができればと思います。

今年一年ありがとうございました。
皆様、どうぞよいお年をお迎え下さい。

2020年12月26日土曜日

年末のご挨拶


お店で注文しようとしたメニューが「SOLD OUT(売り切れ)です」と言われたら、残念だけどまぁ仕方ないですよね。でも、それが病院だったら・・・・

皆さんは「医療崩壊」と聞いて、どのようなことを想像されるでしょうか?病院の経営破綻、あるいは医師や看護師が過労で倒れている姿でしょうか。そんな医療者が悪戦苦闘する状況とは違うもう一つの姿が目の前に迫りつつあります。

感染症に限らず多くの病気は予告なしに現れます。急に具合が悪くなった時には、救急車を呼べば病院に運ばれ適切な治療をうけられる、健康保険に加入していれば一定の負担で最適な医療サービスをうけられる、それが日本における当たり前の医療の姿でした。医療現場で「SOLD OUT」、「ラストオーダー」なんて言われることは考えられませんでした。

しかし、新型コロナの流行で状況が一変しました。病院のベッドが重症患者で一杯になれば、病院に入院できない、あるいは入院しても最適な治療を受けられないことも考えなくてはならなくなりました。入院できる病院やベッドを増やせばいいと思われるかもしれませんが、いくら建物を大きくしても、医療スタッフをすぐに増やすことはできません。新型コロナに限らず、がん、心筋梗塞、脳卒中、骨折や肺炎など、皆さんが住んでいる地域の病院で治療できる患者さんの数には限りがあり、ある一定数を超えてしまうと最善の医療が提供できなくなる、それが「医療崩壊」なのです。

我々医療者は、必要な人に最善の医療を提供し人々の健康を守りたいのです。地域の限りある医療資源を枯渇させないために、新型コロナの患者さんを急激に増やさない努力を共にしていただきたいのです。新型コロナの流行も大きな波でなければ、日本のどの地域でも乗り越えることができると思っています。

繰り返しますが、医療崩壊とは病院が無くなってしまうのではなく、具合の悪い患者さんが病院にたどり着いても「受け入れられません」「治療できません」と断わらなければならない、今までの日本の医療システムでは考えられなかった悲痛な医療現場の光景なのです。

そのような光景を目にすることがないよう、この冬そしてこれからも皆さんと我々医療者が穏やかな時間を過ごせることを切に願っています。

 

202012

東近江市永源寺診療所   花戸 貴司

2020年10月14日水曜日

幼児園での健診

 今日は、園医をしている幼児園での健診でした。

いつもは春と秋に健診をしていますが、今年はコロナの影響で春は中止でした。

健診は胸の音を聴いたり皮膚の状態や背骨の歪みがないかを診るのですが、それだけではあまりにもつまらないので、いつも絵本を持って読んでいます。

今年も各クラス1冊ずつ持っていき読んできました。
コロナのせいで子ども達が窮屈していないか心配しましたが、大きな声で笑ったり、挨拶してくれました。

やっぱ子どもって楽しいですね。





2020年9月30日水曜日

10月よりインフルエンザワクチン接種を開始します。

 当院では、10月よりインフルエンザワクチン接種を下記のとおり開始します。

例年と同様の数だけ入荷を予定しておりますが、在庫が無くなり次第終了となります。

65歳以上の方

    10月1日より接種開始

65歳未満の方

    10月26日より接種開始(予約受付は10月19日より開始)

※当院にカルテのない方(今まで一度も受診あるいは予防接種をされたことのない方)は、予約をお取りすることができませんので、事前に保険証など本人確認のできるものを持参して受付にお越しください。

※東近江市在住の方は、下記の補助が適用になりますので保険証や運転免許証など、本人確認ができるものを持参してください。




2020年7月24日金曜日

生きるということ

昨日、医師による嘱託殺人事件のニュースがはいってきました。
ALS患者さんの死にたいという思い
SNSでつながった医師による行為
患者さんを支えてきたケアチームの葛藤と怒り
この事件に対する社会の反応

いろいろ思いを巡らせます。
今回の事件とは関係なく、普段私が思うことを書きます。

医療者として患者さんから「死んでしまいたい」と吐露された経験は少なからずあります。
それは疾患に対する拒絶、未来を見通せない不安、孤独と絶望、、、などかと想像しますが、患者さんの苦しさを考えると、やすやすと「わかります」なんて言うことはできません。

しかし対話を重ねることで、孤独が解消されないまでも不安は軽減し、絶望の中にもわずかに光が見え、生きる意味を一緒に考える機会を与えてもらうことがあります。

そのような経験から言えることは
同じ病気をもつ人であっても、考えは多種多様であり
同じ患者さんでも、感情は常に一定ではなく揺れ動く
ということです。

また、世の中には難病だけではなく、がん、障がい、引きこもり、貧困、子育て、高齢など、孤独を感じる人たちが数多くおられます。
そんな我々の目の届かないところで孤独を感じる人達も、SNSによって「同じ悩みを抱える人と出会い孤独を解消できる」といった光の部分がある一方で、SNSの世界は多様性に不寛容であり、異なった意見に対し批判されやすい、そんな影の側面もあります。

どのような病気や障がい、状態であっても、私は目の前の患者さんと様々な対話を繰り返すことで、生きる力になる可能性があると信じています。
支える・支えられる
障がいのある・なし
明と暗

今のあなたがどちらに分類されるかではなく、どのような人であっても様々に変化する可能性があることを信じたい。

「病気になって辛いことも多かったですが、不幸なことばかりじゃない」と前向きに話してくれた難病を抱えた10代の女の子の言葉を今も忘れることができません。

常に死と隣り合わせでありつつも、生きる希望を失わないこと。
それを支えるのが我々医療者の役割だと思います。

雑誌に寄稿しました。

とある医学系雑誌に寄稿しました。








2020年6月16日火曜日

患者さんから時計をいただきました

 今日、診察に来られた患者さん(90歳)から手作りの掛時計をいただきました。



待合室の壁に掛けさせていただきました。
ありがとうございます。

2020年5月26日火曜日

緊急事態宣言が解除されました

本日、全国の緊急事態宣言が解除されました。
幸い滋賀県内ならびに東近江市内では新型コロナの大流行はなく、地域の医療機関においては病気や怪我の方を受け入れる体制は崩れていません。医療崩壊をおこすことなく新型コロナの流行を抑えることができたのも、多くの人々が「三密を避け」「手洗い・マスクをする」ことに心がけていただいた結果だと思います。
この間、新型コロナの感染を避けるため経済や教育など様々なことを犠牲にされた方、なかには長期間の自粛により窮屈な思いや生活のし辛さを感じ「もう限界」と思われた方もおられたことでしょう。もちろん緊急事態宣言が解除された今でもウイルスはゼロになったわけではありませんから、どこかで新型コロナに感染する可能性はあります。しかし、感染を避けることばかりに神経を集中しすぎて、体調を崩したり就労や教育の機会を失うことは本末転倒ではないでしょうか。
今、日本国内で新型コロナの流行はある程度コントロールできることが示されました。これから我々が目指すことは、市中の新型コロナ感染者をゼロに抑えることではなく、皆さんの生活上の困りごとを減らすことに変わりつつあります。人々の生活を脅かすリスクは感染症だけではなく、教育・貧困・孤独・疾病・老いなど様々なものがあります。これらを解決するためには健康管理だけではなく、学校生活をはじめ地域の人々とのつながり、経済ならびに社会的な活動など人々の暮らしではないでしょうか。
今、地域の皆さんに意識していただきたいことは、緊急事態宣言前の元どおりの生活に戻るのではなく、様々なリスクに目を配りながらその人らしい生活を送れるようにすること。それこそが「新しい生活様式」につながるのだろうと思います。

様々なリスクをコントロールできる地域づくり、これからの時代のキーワードになると思います。

住みやすい永源寺、暮らしやすい東近江を目指し、頑張りましょう!


2020年5月14日木曜日

地域の皆さんへ

地域の皆さんへ

4月、緊急事態宣言がでましたが、多くの皆さんに努力していただいたおかげで新型コロナの蔓延がおさまりつつあります。しかし、うすうす感じておられるように、このウイルスとの闘いは長期戦を覚悟しなければなりません。これからも「三密をさける」「手洗い・マスクをする」などの予防が大切です。
ところで皆さん、なぜこのような努力をするのか思い出してください。一つは高齢者など感染すると重症化するリスクの高い人にうつさないため、もう一つは、たくさんの人が感染することにより、医療機関とくに重症者をうけいれる病院をパンクさせないようにするためです。そのような事態を避けるため、我々のような小さな地域の診療所も、かかりつけの患者さんはもちろん、発熱患者さんにも責任を持って対応してきました。このように皆さんと協力しながら、地域の医療を崩壊させずに乗り越えてきたのです。
今、緊急事態宣言が解除されようとしていますが、どうか今までの努力を継続してください。体調が悪いと感じたら無理せず休んでください。そしてかかりつけ医に相談してください。新型コロナの検査が必要かどうか、どのような対処が必要であるか、かかりつけ医が判断します。最近、トイレットペーパーやマスクが店頭から消えたことを覚えていますか?必要なものが手に入らない不安を感じた方もおられると思います。じつはこれと同様に、たくさんの人が検査に殺到することで地域の医療資源が枯渇する可能性もあるのです。
もちろん、地域には医療だけではなく教育や経済も大切です。それらを必要な人たちに届けるためにも、ウイルスを排除するのではなく共存できる「新しい生活様式」が必要なんだろうと思います。
我々は、地域の皆さんの生活を守るため、これからも地域の皆さんと一緒に頑張っていきたいと思います。

令和2514
東近江市永源寺診療所
花戸 貴司

2020年4月16日木曜日

新型コロナに感染するまでに考えていただきたいこと

厚生労働省から、新型コロナウイルス感染症の国内発生動向(2020年4月14日掲載分)」が発表されました。


2枚目のスライドに、新型コロナウイルス感染症の国内発生動向という図が示されています。

これを見ると、70歳代でPCR検査が陽性となった人(671人)のうち約1割(71人)が重症(人工呼吸器をつける程度)肺炎になっておられます。その重症肺炎になられた人の約半数(37人)の方がお亡くなりになられています。
80歳以上についてはPCR検査陽性518人のうち、77人が重症肺炎となり、うち53人がお亡くなりになられています。
これからもわかるとおり、70歳以上で重症肺炎になった人のうち半数以上の方がお亡くなりになられる、とても厳しい感染症です。
我々医療者にとって病気になられた方の命救うことができず、大切な人を失うことはとても辛いことです。

しかし、その前に考えていただきたいことがあります。

もし、自分自身が重症肺炎になったら「肺炎の治療として人工呼吸器をつけて欲しいのかどうか」ということです。

そのような場面に直面した時には、本人は意思表示できるような状態にないことが多いのも現実です。このため決定を委ねられるのは家族あるいは親しい方となることが多く、決定を迫られた人の多くは迷います。我々医療者に尋ねられることもありますが、患者さんの治療方法を決めることはできません。

ですので、どのような治療を選択するのか、できれば元気なうちに自分自身で意思表示をしておいていただきたいのです。
当院では、そのような考えのもと患者さんに対しては情報提供とともに「人生の最終章をどのように過ごしたいか」といった対話を繰り返しています。患者さんによっては「そのようになった時には、自分は人工呼吸器はつけて欲しくない」と言われる方、あるいは「できるだけの治療をしてほしい」という方もおられます。

どのような選択であっても構いません。
自分自身で考えて、近しい人に伝えておいていただきたいのです。
我々も共に考え、伝えるお手伝いをします。


そして最後に、
新型コロナは全ての人に対して「死」を意識させる感染症ですが、感染した全ての人が肺炎になるわけではありません。
このウイルスに対する薬やワクチンがない現状では、我々にできることは、感染を予防し、栄養と睡眠を充分にとり体力をつけておくことです。

目の前に迫った現実から目をそらさず、生きていきましょう。






2020年4月14日火曜日

人生の希望を語り合うこと

当院では、在宅患者さんだけではなく外来にこられている患者さんにも、人生の最終章をどのように過ごしたいかご本人とお話をしています。

具体的な場面を尋ねたり、定型的な書面を用意しているわけではありませんが、診察の時に医師からご本人に直接「ご飯が食べられなくなったらどうしますか?」と尋ねています。病気の種類、介護の必要度、年齢、患者さんによって抱える健康上の問題点あるいは生活上の課題は様々ですが、状況が変化したときやご家族が付き添ってこられた時など、一人一人丁寧に話し合いお話しされたことをその都度カルテに書き込んでいます。

下の図は、3月21日から先週末まで外来に来られた50歳以上の患者さんが今まで私達とどのような話し合いをしたのかの内訳です。

治療・・病気に対して入院してできるだけ治療を優先することを希望する。
不要・・入院治療よりも、在宅での生活優先することを希望する。
未定・・まだ、人生の最終章のことまでは考えていない。
未確認・・その話題について医師と話し合っていない。




今、新型コロナウイルス感染症が都市部を中心に流行し始めています。今後、大都市だけではなく滋賀県内の地方都市、あるいは永源寺地域のような農村地域にも流行の波が訪れると思います。その時に感染しないように予防することも大切ですが、ウイルスに感染し肺炎になった時にどのような治療を選択するのか、本人とあらかじめ話し合っておくことはとても大切なことだと思っています。
今回の新型コロナウイルスによる肺炎が重症化した時、残念ながら人工呼吸器をつけた人が全て助かるわけではありません。ECMO(体外式膜型人工肺)も同じです。高齢になればなるほど治療成績は悪くなり合併症などのリスクも高くなります。
今回の肺炎に限らず、身近に死を意識することがいつ起こるかわかりません。ですので、自分自身はどのような治療方法を希望するのか、元気なうちから話し合っておくことがとても大切なのです。

当院の外来に来られる多くの患者さんは高齢の患者さんです。患者さんと話していると「肺炎になっても、苦しみがないようにしてもらえるのなら、人工呼吸器をつけないで最期まで家ですごしたい」という希望は多くあります。
指定感染症になっている新型コロナウイルスの場合、それがどこまで叶えられるのか、現時点では充分にわからないのも事実です。しかし、できないと諦めるのではなく、どのようにすれば本人の思いを叶えられるのかを考えるのも我々の仕事だと思っています。

これからも対話を続けていきたいと思います。
皆さんは「ご飯が食べられなくなったら、どうしますか?」

訂正)改めて確認しましたところ、データに訂正がありましたので図を修正しました。(2020.04.19)

2020年4月8日水曜日

ルールよりもマナーで感染を封じ込めよう

昨日、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令されました。
記者会見では「どのような会社はNGで、どのような職業は大丈夫なのか?」と言ったルールを明確にして欲しい、あるいは今後の見通しを尋ねる質問が多かったように思います。

確かにルールを決めれば個人や会社の方針を決定しやすいかもしれません。しかし、今やろうとしていることは「ルールを決めるのではなく、一人一人のマナーを徹底させること」だと私は理解しています。

前回のブログにも書きましたが、人間の社会的な活動の広がりが今回の感染流行になっているのは明らかです。そして、多くの国々で社会的な活動を制限することで流行を抑えられています。
社会活動を制限する方法は様々で、ヨーロッパには都市封鎖(ロックダウン)という方法で人々の行動を強制的に制限した国があります。これ以外にも都市封鎖に加えてスマホにアプリをダウンロードした個人の行動を全て把握して個人監視によりウイルスを押さえ込もうとした国もあります。

今、我々はどのように行動すべきなのでしょうか。

今回の緊急事態宣言は、国民に対しての強制力はありません。一部には「働かないと生活できない」という声も耳にしますが、命よりも大切な仕事ってあるのでしょうか。そのような価値観を生み出しているのは、貧富の格差が広がってしまった間違った社会なのかもしれません。一人一人が安心して生活できるようを社会保障を充実させること、それは公的扶助と言われる経済的な保証だけではなく、医療や福祉、公衆衛生分野などの充実です。
そのように安心して生活できる社会保障のもとで、一人一人が「三密を避ける」「体調が悪ければ休む」といったマナーを守ることができれば、感染をコントロールできるように思います。

繰り返します。
今、目指すべき目標は、社会活動を保ちながらウイルスと共存できる社会だと思います。
緊急事態宣言がでた地域もそうでない地域も、心がける個々人の行動は一緒です。一人一人がマナーを守りながら、感染を封じ込められるよう頑張りましょう。

2020年4月1日水曜日

利己的遺伝子という考え方

中国武漢で発生したCOVID-19(以下、「新型コロナ」と書きます)は、中国から全世界へと広まり、世界各国は国民の社会活動をとめるという手段でウイルスの広まりを抑えようと必死になっています。
しかし、現在のところ有効な治療法は開発されておらず、ワクチンもしばらく先になりそうです。
今まで人類は、様々な病原体による感染症の脅威と対面しました。天然痘など一部は押さえ込みに成功しましたが、ほとんどの感染症とは文化や生活スタイルを変えながら共存を続けています。今、世界中が立ち向かっている新型コロナとの戦いは、この先どうなるのでしょうか。

リチャード・ドーキンスが著書「利己的な遺伝子」で、すべての生物は遺伝子の乗り物に過ぎないという説を唱えました。

それまでのダーウィン説と対峙するもので、
ダーウィンは、個体が遺伝子よりも優先する。
 → 個体は自己に似た個体を残すことを目的とし、そのために遺伝子を利用する。
その一方で、ドーキンスは遺伝子が個体よりも優先する。
 → 遺伝子は自己に似た遺伝子を増やすことを目的とし、そのために個体を利用する。

というものです。つまりドーキンスの説によれば、生命体においては遺伝子が主体であり、全ての生物は遺伝子の乗り物でしかないという説です。

今回のコロナウイルスは、なんらかの野生動物が宿主でしたが、遺伝子がさらに広がるために人間を宿主に選びました。ウイルスが感染した全ての人間の命を奪ってしまっては遺伝子は自己を広めることはできません。
他の動物に比べ移動能力が格段に高い人間を選び、発症するまでに移動可能な潜伏期を保ち、多くの人間に感染しつつも軽症で済ませている(が、高齢者は重症になりやすい)。
ウイルス側から見るとグローバル化が進んだ人間社会こそが、自己増殖にとっては都合の良い宿主だったようです。
今回の新型コロナの流行は、グローバル化が進んだ人間の生活スタイルこそが根源だったと考えるのが自然なようです。
新型コロナウイルスは、せっかく選んだ宿主に感染する手を緩めることはないと思います。世界中で流行している感染症を、日本だけ感染が広がらないように押さえ込むことはおそらく不可能であり、人間にとっての現実は厳しいと思います。

社会活動を保ちながら、ウイルスといかに共存するか。
人間社会にとって新しい文化、新しい生活スタイルに変化するタイミングなのかもしれません。











2020年3月26日木曜日

國森さんの新刊

新型コロナのニュースが、国内外から毎日流れてきます。
今まで自分も含め、患者さんも「これぐらいまで生きられるのだろうなぁ」と漠然と思っていたことが、新興感染症を目の当たりにして一気に揺らいできた。
そして、感染症をコントロールできるのは「都市封鎖」という製造小売業を中心とした中小企業の経済がストップし、民主主義における自由を奪うような対策が方法になるかもしれないという流れ。
すべてにおいて、先が見えない不安にさいなまれています。

そんな中、一冊の本が届きました。
國森さんの「生老病死 そして生」という本です。



「あたたかい死」を世界中の誰もが迎えられるようにしたい、そんな言葉からはじまる國森さんの写真と文章にページをめくるたびにひきこまれていきました。
死を避けるのではなく、目をそらさずに生きることで、それぞれの命が次の世代に繋がっていく。
老いも若きも、障がい・病気があっても生きる力強さを感じる写真の数々。
その一方で、貧困や社会格差のせいで生き辛さを抱えた人々。

一言では言いあらわせませんが、今、自分たちの生きる意味を考えさせられました。

おすすめの一冊です。

2020年3月22日日曜日

どれぐらい続くの?

毎日、新型コロナの話題がニュースになっていますが、自粛ムードはどれぐらい続くのでしょうか?

本日(3月22日)まで、世界の新型コロナの感染者は30万人、死者も13,000人を超えています。

https://www.worldometers.info/coronavirus/

上記のサイトからの引用ですが、右肩上がりで数が増えているのがわかります。
(まだ頂点に至っていないという点に注目してください)





先日、「今どのあたり?」をというタイトルで記事を書きましたが、日本は流行拡大の手前の段階、今、まさにこのあたりなんだろうと思います。



しかし、現在地点がわかっても、その先が見通せないという不安もあります。
というのもこのグラフに縦軸と横軸の目盛りがないのです。

一つの資料として、3月6日付の厚生労働省の文書があります。
https://www.mhlw.go.jp/content/000605276.pdf




「ピーク時は、各都道府県等において疫学的関連性が把握できない程度に 感染が拡大した時点から概ね3か月後に到来すると推計されている。」と書かれています。


そしてメディアからの引用ですが、3月20日付のNYtimes onlineには、このようなグラフが出ていました。






あくまで予想でしかありませんが、新型コロナによる感染者対策に要する時間は、週単位ではなく、数か月から一年という単位のようです。
そのような長期的な視点の一方で、大型イベントの自粛、濃厚接触者の自宅待機などの「クラスター対策」はまだまだ必要な時期であることを忘れてはなりません。

自粛ムードを弛緩することにより新たなクラスターが発生することも予想されます。

感染拡大によりロックダウン(都市封鎖)という対策をとった国(地域)もあることも忘れないでください。

今、もう一度考えたいと思います。

・一人一人が、手洗いなど感染予防に心がけること
・換気の悪い場所で、多くの人が集まり、近距離で会話するようなイベントを控えること
・体調が悪ければ、無理せずに学校・仕事を休むこと

こんなことを続けながら生活を楽しむこと、学校に通うこと、経済をまわすこと、できるんじゃないでしょうか。

「今、まさにこのあたり」なのです。





2020年3月20日金曜日

今どのあたり?

 昨日(3月19日)、厚生労働省の専門家会議の会見がありました。




資料はこちら
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000610566.pdf

内容を要約すると、「いつか、どこかで爆発的拡大(オーバーシュート)があるかもしれない」ということです。

「オーバーシュート」ってどのようなことを意味するのでしょうか?

*************
 先日、とある方から「コロナって、あとどれぐらいでおさまるんですか?」という質問を受けました。イベントや、外出をいつまで自粛すればいいのか?という趣旨だと思います。

このグラフを見てください。


新型コロナの感染を示す図です。
以前から「流行のピークを下げる対策が必要」という説明をするために使われていました。
オーバーシュートというのは患者数が急激に上昇するということです。ここに至るかどうかの分かれ目という時期なので、下に書いたように「今、まさにこのあたり」なんです。


今、保健所をはじめ行政の皆さんが、感染者と濃厚接触者を追いかけています。しかし、この追跡が間に合わない(追いかけられない)時期がきますが、それは突然に訪れ、感染者は爆発的に増えます。そして流行がどれぐらい続くかも予想がつきません。

それがこれから始まるのです。

イベントを自粛しているのは感染を急激に広げ(オーバーシュート)ないようにしているためで、水も漏らさないような完全防御ではないのです。
日本だけ、あるいは滋賀、東近江だけ感染が広がらないといった希望は捨てた方がいいと思います。

これから教育、経済、医療、介護、今までどおりに進まないことが予想されます。
それに備えて、個人・家族・会社・行政が考えておかないことがあります。

そう思いながら、専門家会議の資料も読めば自分ごととして考えられるのではないでしょうか。


厳しいことを書きましたが、今回の新型コロナは誰もが感染するウイルスです。しかし、誰もが重症になるわけではありません。

新型コロナに注意しながらも安心して社会生活が送れるよう、それぞれの立場でできること、考えていただければと思います。


2020年3月17日火曜日

こんな時期だからこそ、ひとりひとりができること

 世の中の人が外出を控えておられるせいか、今年はインフルエンザの流行もなく、外来・在宅の患者さんも落ち着いています。
 患者さんから「新型コロナってどうなんですかね?」という質問をいただきますが、「皆さん罹りますよ、誰も触れたことのないウイルスですから」と説明しています。
 半分冗談のような話ですが、誰もが感染する可能性のあるウイルスであることは間違いありません。しかし、新型コロナに感染したからといって誰もが重症化するわけではなく、感染しても8割の人が入院せずに済む軽症であることがわかっています。ですのでひどく心配する必要はありません。
 そして、新型コロナの感染パターンもだんだんとわかってきました。新型コロナに感染しても8割の人は誰にも感染させずに個人の中で収束しています。しかし、残り2割が「クラスター」と呼ばれる次々に人に感染が連鎖していくパターンを呈しています。

クラスターが起こりやすい環境も指摘されています。
・換気のない密閉空間
・多くの人が密集する場所
・近距離で会話、発声などがある


3月15日、厚生労働省で発表されたクラスターマップを見ると、まさに上記の3条件が当てはまっているようです。

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000608641.pdf


そして、環境要因以外にも、個人で気をつけていただきたいことがあります。

日頃からの「手洗い」はぜひ続けてください。
帰宅後、マスクを外した後、食事の前などは忘れずに行なってください。
高血圧や糖尿病、肺疾患など、日頃から通院が必要な病気(基礎疾患と言います)がある人は、しっかりと管理してもらってください。決して、通院を疎かにして薬がきれたなんてことがないようにしてください。

今までの調査でも、高齢者や基礎疾患がある人は全員ではありませんが重症化しやすいことがわかっています。

自分自身はもちろん、そのような人達が罹患しないよう、そして地域でクラスターが発生しないよう一人一人ができることを心がけましょう。

最後にもう一度書きます
「コロナは誰もが罹るウイルスです」







2020年3月2日月曜日

明日から臨時休校

明日から東近江市内の学校が臨時休校になります。
山上小学校の校医として、児童の皆さんと保護者の皆さんにメッセージを書きました。

休みの間、大人から「勉強しなさいっ」って言うばかりではなく、子どもらしく過ごすことができるよう我々も応援しております。




2020年2月7日金曜日

子ども達の成長を感じる時

花戸が続けている活動の一つに「絵本のよみかたり」があります。
週1回、小学校の朝読書の時間にボランティアとして伺い、絵本を読みます。
絵本のチョイスは自分。季節、学年にあわせて絵本を持参します。
一昨日は、2年生の担当でした。
絵本を読む前に、一人の男の子が私の近くにやってきて、なにか小声で話しかけてきました。
「えっ?なになに?」と腰を下ろすと、男の子が耳元で呟きました・・・
「先生、けっこんしてるん?」
一瞬、えっ!と思いましたが、この子なりに考えていることがあるんだろうなぁと思いながら、「うん、けっこんしてるよ」と答えました。
するとにっこり笑い、その後は何もなかったかのように皆と一緒に座り、いつものように読みかたりが始まりました。
・・・好きな子ができたのかな?
・・・バレンタイン前だし、女の子になにか言われたのかな?
・・・お父さんとお母さん、なにかあったのかな?
お母さん妊娠したのかな?
笑顔の裏で、子どもなりに成長しているんだろうなぁ。
子どもって面白い。


ちなみに、この2年生のクラスで「新型コロナウイルスにかかった人いますか?」と尋ねたら、男の子が3人ほど手を挙げました。高い罹患率です(笑)





2020年1月28日火曜日

永源寺診療所における在宅導入の内訳

ここ5年間で永源寺診療所の在宅医療(訪問診療)を導入した患者さんを調べてみました。

在宅導入前に受けていた医療の場所別で調べてみました。
(自宅のみ、施設・グループホームは除きます。)・病院から退院時・当院の外来から・他院の外来からと分けてみました。


病院からの退院は、48(うち退院前カンファレンスの参加40)当院外来から在宅へ、119他院に通院していたが、家族・ケアマネから、40でした。


がん、骨折、脳梗塞などの大きな疾患があれば入院になり、退院後に訪問診療してもらおうか・・・と病院の方から勧められることがあると思います。

しかし、外来通院を続けながらも徐々にADLが低下するような老衰などの場合、本来なら在宅移行を考えるべきタイミングを逸しているのではないか?とも感じます。

外来通院している時から「かかりつけ医」が日常生活上の問題点に目を配りながら日常生活での居場所や役割を確認し、必要であれば介護保険を勧める。

本来、高齢になれば誰もがこのようななだらかな移行期があり、ピンポイントで「ここから在宅」と勧められるようなものではないと思います。
当院のような診療所では、そのような患者さんの生活の様子が見えやすい一方で、病院ではなかなか難しいだろうとも感じます。

これからは(入院を経ない)外来から在宅への道筋づくりが重要になってくるようにも感じます。



2020年1月9日木曜日

朝日新聞さんに投書しました。

今朝の朝日新聞さんの「声」欄に掲載していただきました。


認知症や介護が必要な人を、家族だけで面倒をみる、あるいは介護保険などの制度だけで支えようとするには無理があるように感じます。
「支える→支えられる」といった一方向性の支援ではなく、互いの居場所と役割がある寛容なコミュニティが必要ではないでしょうか。
地域の人はもちろん、我々医療介護関係者ももっと地域コミュニティに目を向けるべきだと思います。


追記)この投稿をするきっかけとなったのは、先月同欄に掲載されていた投稿でした。



2020年1月8日水曜日

山上小学校でのキャリア教育

本日、山上小学校6年生に「キャリア教育」をさせていただきました。
私の生い立ち、医師を目指したきっかけ、そして私が永源寺で行ってきたことを話をさせていただきました。
医療を提供するだけではなく、地域の人とのつながり、これからの世代に伝えたいことをお話しさせていただきました。

6年生の皆さんも熱心に聴いてくださいました。





当院の在宅医療について

   ここ19年間の実績をまとめました。      死亡診断書枚数   在宅患者さん人数   訪問診療・往診のべ回数 2005年    12           66          492 2006年    17           70          553 2007年...